ユネスコ創造都市やまがた

第11回 Creative Café『地域とアートを考える』が開催されました!

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2016年の山形ビエンナーレで、今回の会場である旧西村写真館に暮らす今年95歳になるHさんの話を聞くことで、この写真館に展示する作品を制作した華雪さん。『ひとりの女が家の中に座っている』の展示について改めてお話を聞く機会をいただきました。

 

書家・華雪さん

 

 

以下、華雪さんより

 

久しぶりのHさんに会って話をする。今日はなんとはなしに、かつての写真館での仕事の話題になっていった。Hさんは仕事の話をするときは、かならず当時の手つきをすべてやってみせてくれる。そうこうしていると、トークイベントの時間が来た。

 

Hさんも一緒に二階に行く?と訊くと、Hさんは思いがけず頷いて、ゆっくり立ち上がるとスタジオへの階段を自分ひとりで上りはじめた。

Hさんが階段を上るのをはじめて見る。

Hさんを書いた「安」の書の下に、Hさんが座る。

 

イベントでは、当初どんなふうに展示をつくっていったかについて話そうと考えていたが、Hさんに写真館の仕事の話を訊いてみようと耳元で質問すると、Hさんの話が止まらなくなる。

話を聞くうち、こうしてまさにわたしはずっとHさんの話を聞いてきたんだなと思えてきて、Hさんの聴き手になることに決めて、すこしずつ質問を重ねると、初めて聞く話題がたくさん出てきた。

 

ふいにHさんが、暗室で、薄い紙をつまみ上げるから、利き手の人差し指が変形しているんだと、見せてくれた。

イベントの参加者のみなさんの視線が、Hさんの指先に集中するのがわかる。

たしかに右手の人差し指が妙なかたちに曲がっている。その人差し指の腹と親指の腹を合わせると、まるでピンセットのように見えた。Hさんは、指先をくっつけたり離したりしながら、こうやって、真っ暗の中で、紙をつまんだんだ、と言った。

 

イベントの終わりに、Hさんの頭上ではためいていた「安」の書を指して、これ、わたしが、Hさんと西村写真館を書いたんだ、とHさんの耳元に口を寄せて言った。

これがスタジオの屋根で、とうかんむりを指先でなぞる。

これがHさん、と「女」の字の部分をなぞって、これが足。

Hさん、足小さいから、足痛めてるから、こんなふうに書いた、と指先をあえてそっと書いた終筆に重ねると、Hさんは、おれの足か、と可笑しそうに笑われた。

おれは、なんで足を痛めたのかな‥‥あー、一階と二階を行ったり来たり、たくさんしたからだなぁ、とまたけらけらと笑われる。

 

 

帰る間際、Hさんに挨拶をしに、彼女のいつもいる居間に寄ると、Hさんはなにもなかったように、こたつで新聞を広げていた。

引き戸を開けて、Hさんありがとう、突然ごめんなさいと言うと、いやぁ、ありがとうと笑って、わたしの手を取ってくれる。

指の写真撮ってもいい? と訊くと、ペロリと舌を出して、こうか、こんなか、と新聞の上で、いろいろに動かしてくれた。

 

動き続けるHさんの指先を見ながら、今日のトークイベントのテーマが『地域とアート』だったことを改めて思い返していた。

 

 


次回…

 

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